内羽根ストレートチップ(ブラック・黒)

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ウェルト部分には細かな目付けが施されている。この目付けによってだし縫いの糸はほとんど目立たなくなり、まるで縫い目が無いかのように見える。曲線を描くトウのシェイプに沿って、均等な間隔を保つのは難しい。ただの溝ではなく明確な意図を以って施された仕事であると分かるのは、確かな技術をもってこその事だ。

ともすると無骨な印象を与える底付けの跡を、逆にエレガントさを表現する装飾の一つと変える創意。この箇所は、実は人の目に触れやすい部分でもある。それと気付いていたからこその、先人の意匠と言えるかも知れない。

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ライニング(腰裏)の縫い合わせ部分は、“箱縫い”という手法によってまとめられている。通常ライニングのまとめは、縫い目が履き口にまで抜けるように一重で縫われていることが多い。箱縫いは、一旦履き口付近まで縫製したあと、ミシンの角度を変え箱型を描いて再びソール方向へ縫い目を戻す。

これによって、ライニングの縫い合わせ部分が履き口側からほつれることがなくなっている。靴の着脱が多く履き口周辺に付加のかかりやすい日本人の特徴を考えてのことと言える。

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ソールの周囲には、焼き鏝(こて)によって化粧が施されている。本底は周辺に溝を起こし、その部分を底縫いの糸が通り、縫い終わるとそれをかぶせて縫い目を隠す、ヒドゥン・チャネルと呼ばれる方法で取り付けられる。これは底面を美しく見せるための手法であるが、この靴ではさらに焼き鏝で化粧を施すことによって、溝を起こしたわずかな跡も目立たないようにされている。

トップリフトには手打ちによってパネル釘を打ち込み、ヒール内側(通称内あご)にはカットを施した。減りやすい踵部分には鍵裂きタイプのゴムを取り付けることで補強がなされている。







内羽根ストレートチップ(ブラック・黒)








 

■Last(靴型):B-715

■Width(足幅):EE

■製法:グッドイヤーウェルト製法

■素材

 甲革:カーフレザー
 腰裏ライニング:牛タンニンヌメ

■口周り:切放玉縁

■コバ仕上げ:平コバ

■ウェルト面仕上げ:目付け

■シャンク:布巻きスチールシャンク

■中物:練りコルク