ベルト部分には玉縁を施し、このタイプのローファーにあり
がちな“薄っぺら感”をなくして立体感を出した。その履
きやすさを表現するために「怠け者」という不名誉な
名称を与えられたローファーだが、それだけ他の形状
の靴に比べて足入れが楽だということに他ならない。

しかしそのローファーに立体感を持つディテールを
取り入れることで、怠け者どころか、ラグジュアリー
な雰囲気を醸し出す一足に仕上がった。

素材には、英国のスエードを専門に取り扱うタンナー
より取り寄せた皮革を使用し、素材感と立体感がお互
い高めあうような、クオリティとデザインのバランスを
重視した。

“自然体”の状態においては、それ自体は特別に主張するわけでもなく、しかし確かに安心感を感じられるような、そんな一足が必要なのだ。
 
 



このUチップは、ただ単純に縫い合わされているのではない。いわゆる「乗せモカ」と呼ばれる、モカを本体の上に乗せ、上下糸を通していく縫製を行った後で、ハンドソーンによるステッチを施し絞りあげることで立体感を出しボリューミーな印象を出している。

そしてステッチの描くスクエアなラインは、カジュアルになり過ぎず、スマートな印象を与える。また爪先先端までの距離感も絶妙だ。シームレスのトゥが程よく際立つ距離で描く確信犯的なU字のカーブは、他のUチップとは一線を画している。
 




ウェルト部分には細かな目付けが施されている。この目付けによってだし縫いの糸はほとんど目立たなくなり、まるで縫い目が無いかのように見える。曲線を描くトゥのシェイプに沿って、均等な間隔を保つのは難しい。ただの溝ではなく明確な意図を以って施された仕事であると分かるのは、確かな技術をもってこその事だ。

ともすると無骨な印象を与える出し縫いの跡を、逆にエレガントさを表現する装飾の一つと変える創意である。


かかと部分のライニング(腰裏)には、あえて革の裏の起毛している側を用いている。

ローファーは普通の短靴と異なり、足をホールドする部分が少ない。実際には、甲とかかと部分だけで足を押さえていると言ってよい。そのため、普通の短靴に比べると脱げ易い(かかとが抜けやすい)ことがある。

そこで、かかと部分にすべりにくい起毛の素材を用いることで、少しでもかかとが抜けにくくなるようにしている。足入れの良さは多くの人が認めるところだが、その上で歩きやすさも追求した仕様である。

大塚の靴における踵の最大の特徴は、半二重と呼ばれるステッチが施されている点だ。踵部分にステッチが二重に施し補強することで、履き口の傷みを最小限に抑えている。

脱いだり履いたりを頻繁に行う日本人を想定した仕様である。




ソールの周囲には、焼き鏝(こて)によって化粧が施されている。本底は周辺に溝を起こし、その部分を底縫いの糸が通り、縫い終わるとそれをかぶせて縫い目を隠す、ヒドゥン・チャネルと呼ばれる方法で取り付けられる。これは底面を美しく見せるための手法であるが、この靴ではさらに焼き鏝で化粧を施すことによって、溝を起こしたわずかな跡も目立たないようにされている。

トップリフトには手打ちによってパネル釘を打ち込み、ヒール内側(通称内あご)にはカットを施した。減りやすい踵部分には鍵裂きタイプのゴムを取り付けることで補強がなされている。








 


■Last(靴型):B-715
■Width(足幅):EE
■製法:グッドイヤーウェルト製法
■カラー:スエードダークブラウン
■素材
 甲革:スエード
 腰裏ライニング:牛タンニンヌメ

■口周り:切放玉縁
■コバ仕上げ:平コバ
■ウェルト面仕上げ:目付け
■シャンク:布巻きスチールシャンク
■中物:練りコルク